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「ウェーバー研究者に羽入-折原論争への応答を呼びかける手紙」


橋本努
2004.1.18.

 

 

親愛なるウェーバー研究者の皆様へ

 

 拝啓

 

新春の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。

折原浩氏が『ヴェーバー学のすすめ』(未来社200311月)を上梓され、羽入辰郎氏の著作『マックス・ヴェーバーの犯罪』に対して本格的な論争を展開されています。これを受けて、雑誌『未来』(20041月号)Iでは、折原氏の玉稿「学者の品位と責任――『歴史における個人の役割』」の他に、僭越ながら私も、拙稿「ウェーバーは罪を犯したのか――羽入-折原論争の第一ラウンドを読む」を掲載させていただきました。本稿は論争の争点を整理するものであり、あえて個人的な評価を抑制しておりますが、これはウェーバー研究者の皆様にも、何らかのかたちで論争に参加していただきたいと思うからであります。ウェーバー研究者の皆様は、羽入書に対して、当事者としてどのように応じられますか。また羽入-折原論争をどのように評価ないし判定されますか。ご意見を伺うことができれば幸いです。

なお、拙稿とは別に、私は最近、本論争への参加と応答を示した原稿を書きましたので、ここにお送りいたします。こちらは私の個人的な評価となっています。御笑覧いただけると幸いです。

 さて、折原氏は、今年の年賀状で「ヴェーバーを詐欺師と決めつける際物本が出まわっているのに、正面から反論する研究者が『若手』からも『中堅』からも現れませんでした」と書いています。また雑誌『未来』では、ウェーバー研究者たちが応答せずに「見て見ぬふり」をしていることの「倫理的浅ましさ」を問いただしています。そして、「問題と状況のいかんによっては、多忙による回避が許されないこともある。あてどなくさまよう人間組織への責任を優先させ、研究への直接の責任を忘れるとすれば、本末転倒であろう」と結んでいます。さらに折原氏は、すでに論争の第二ラウンドを準備しており、『未来』三月号にはその原稿が掲載される予定です。また雑誌『エコノミスト』2004.1.27.号の60ページには、「著者に聞く」のコーナーで、折原氏が本論争とウェーバー研究者について、羽入説を黙認した学界の社会的責任を問うています。こうした折原氏の問題提起(あるいは倫理的要請)について、私たちはこれを、何らかの形で受け止めなければならない、と私は考えます。

 しかし私自身を含めて多くの研究者たちは、いったい論争というのは、どの時期に、誰が、いかなる媒体を通じてなしうるものなのか、という基本的な問題に直面します。なるほど折原氏は、今回の羽入氏の問題提起において、おそらく最も応答責任を問われている研究者であるでしょう。そして折原氏は、今回それに相応しい責任を果たしたと私は思います。しかもその応答は、私たちの予想をはるかに越える、すぐれた反論でした。ところが私たちにとって、はたして、私たちのすべてがこの論争に参加することが実際に可能なのか(それほどの媒体が確保されるのか)、また、論争への参加を自らすすんで引き受けるだけの意義があるのか(誰かから原稿依頼があれば応じる用意はあるのだが、自分から情報発信するには腰が重い)、という問題があります。

もっとも幸いにして、現代社会にはインターネットというメディアがあり、誰でも少ないコストで自己表現をすることが可能になっています。そこで私から皆様にお願いしたいことは、例えばホームページを通じてこの論争に参加していただけないか、ということです。すでに個人のホームページを運営されている方は、そこに掲載することができますし、また運営されていない方は、例えば私のホームページに掲載をすることができます(手書きの原稿でも、私の方でワープロ原稿に変換いたします)。さらに、論争参加者たちの応答をお互いにリンクで結ぶことによって、インターネットの読者に対して分かりやすく、アクセスしやすいかたちで、私たちの応答を表現できるのではないかと思います。私のホームページには、「羽入-折原論争への応答」という趣旨のページを新たに設けたいと思っています。(本ホームページは、一か月に千人程度のアクセスがあります。)なお、このページにもし皆様の応答を掲載させていただく場合には、その著作権は、書き手である皆様のものとなります。つまり、掲載を途中で辞退されたり、内容を変更されたりすることが可能です。草稿を発表されて、のちに別の媒体に掲載する際に取り下げることも可能です。

 羽入-折原論争への応答責任は、「なるべく早い時期に」という倫理的要請を伴っています。また、本論争に直接応答しない場合でも、場外から間接的な応答をすることは可能です。応答しない場合には、なぜ応答しないのかに関する応答責任を負うことにもなるでしょう。私はこの応答責任の問題を重く受け止めています。おそらく、羽入書を読んだ人々が発するであろうメッセージは、次のようなものです。「ウェーバーって詐欺師なんでしょ。文献の操作なんかして、これは許せない犯罪ですね。先生はこれまでウェーバーを研究してきて、一生を(あるいは青春を)棒に振ってしまったのではないですか。ウェーバーなんか読まないほうがいいですよ。」――こういう具合に、社会的な評価がなされていくと思います。実際、羽入書は山本七平賞を受賞されましたので、事は政治的に動いています。これはやっかいな論争に巻き込まれてしまったと思われるでしょう。しかし皆様、この際、どうしてウェーバー研究が必要なのか、ウェーバーから何を学ぶことができるのか、といった素朴な問題にまで立ち帰って、もう一度語り直してみませんか。この論争を機会に、ウェーバーがいっそう読まれることを私は願っています。

以上です。なおこの手紙を公開書簡として、私のホームページに掲載させていただきます。どうぞご了承ください。

寒さが厳しい季節となりました。どうぞお身体には、十分ご自愛ください。今後ともご指導、ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

敬具

 

2004120

 

 

橋本努